「この時間が、ずっと続けばいいのに」
大切な人と過ごす幸せな一日の中で、そう願ったことはないでしょうか。 私たちの新作映画『最後の日はガムのように』は、そんな誰もが抱くささやかな願いが、少し不思議な形で叶ってしまった男の物語です。
はじめまして。監督の荒木です。 今回は、この映画を撮るに至った、私自身の想いについて少しお話しさせてください。
「タイムループ」で描きたかった、記憶という名の楽園
この物語の核は、「タイムループ」というSF的な仕掛けです。しかし、私が描きたいのは単なる空想科学ではありません。このループは、私たちが過去の幸せな記憶に囚われてしまう「心」そのもののメタファーです。
失いたくない過去の思い出は、何度も頭の中で再生され、私たちを慰めてくれます。それは心地よく、しかし停滞した楽園です。主人公の斎人は、不思議なカメラの力で、その楽園に物理的に閉じこもることを選びます。
前に進むべきだと分かっているのに、心地よい過去に浸っていたい。そんな誰もが持つであろう心の葛藤を、タイムループという装置を使って描きたいと思いました。
なぜ、タイトルは「ガムのように」なのか
この少し変わったタイトルは、主人公が迷い込むループの本質を表しています。
最初は甘い味がするのに、噛み続けるうちにやがて味がなくなっていく、あのガムのように。幸せだったはずの「最後の一日」も、無限に繰り返される中で、次第にその輝きを失い、虚しいだけの行為に変わっていきます。
永遠に続く甘い時間など、本当は存在しないのかもしれない。その切実な事実に、主人公はどう向き合っていくのか。それが、この映画の大きな見どころの一つです。
登場人物たちに込めた、自分自身の姿
主人公の斎人は、決して格好良いヒーローではありません。弱く、依存的で、恋人がいなくなる未来を恐れるあまり、自分本位な選択をしてしまいます。しかし、彼のその弱さは、僕の中にも、そして多くの人の中にも存在する一部分なのだと思います。
一方で、ヒロインの佐穂は、自分の未来のために前を向いて進もうとする、強い女性です。彼女の人物像を描くにあたり、実際に社会で働く年上の方に話を聞く機会を設けました。彼女の抱える葛藤や決断のリアリティにも、ぜひ注目していただきたいです。
おわりに
この映画は、単なる「切ない別れの物語」ではありません。 過去に囚われた青年が、ループの果てに何を見つけ、どう成長していくのか。そして、本当の愛とは、相手を過去に縛り付けることではなく、たとえ別の道を歩むことになったとしても、その人の未来を心から応援することではないか。そんな問いを、観てくださる方々と共有したいと思っています。
現在、素晴らしいキャスト・スタッフと共に、本格的な制作準備を進めています。 この映画が完成するまでの旅路を、ぜひ皆さんと一緒に歩んでいけたら嬉しいです。
どうぞ、ご期待ください。
(Films I2U 監督・荒木祥)